G-112 光明鶉杢入り屋久杉一枚板
1996年12月に、江戸最後の木挽き職人・林以一氏、成田力蔵氏によって2日間かけて11枚に製材されたうちの一枚。
根回りからの推定樹齢は、およそ3000年。
丸太の直径約2.2mの巨木の屋久杉です。
鶉杢、笹杢、光明杢が大変美しい一枚で、木目一本一本が緻密ながら明瞭に伸び、流れを同じくして光明杢の筋が緻密な木目の中を優雅に漂っています。
製材当時の写真を見る限りでは、黒い部分は入り皮で、恐らく光明杢があった跡と考えられます。
光明杢は製材時に綺麗に出ても、乾燥中に消えてしまうことが多いため、本箇所もその名残りと思われます。
そのため、入り皮(黒い部分)周辺には光明杢がぎっしりと密集していて、非常に自然豊かな表情を感じることができます。
基本的に屋久杉の競りは完全終了し、いま立っている屋久杉を伐ることは完全に禁止されています。そのため、生木(せいぼく)を手に入れることは非常に困難です。
また大変勿体ないことですが、幅1mを超える木は製材の機械に入らないため片側の耳を落として、製材するのが常でした。
しかし、業者によって木を大切にされる材木銘木屋様の場合は、製材機に入らない木は木挽き職人様によって人力で切る選択を取られており、こちらの屋久杉も名人・林氏、成田氏によって丁重に製材された一枚です。
そのため屋久杉の生木で、幅155cm、長さ353cmの一枚板が両耳付きで完璧な状態で存在しているのは、非常に稀です。
屋久杉特有の黄土色とは若干違い、ピンク色の色調が強い屋久杉です。両側の耳(外側)および鶉杢等の木目が密集する箇所は乳白色が広がっています。
土埋木とは違った魅力があり、自然の厳しさや生き抜く強さを伝えてくれる一枚です。
今では絶対に手に入らない生木の屋久杉で、数々の名職人が大切に守ってきたこの一枚には、時代を超えて愛されてきた系譜が刻まれています。
『屋久杉とは?』
屋久島で標高500mを越える山地に自生し、樹齢1,000年を超える杉を“屋久杉”と呼びます。
全国に生えるスギ科の木材と同じ素材ですが、通常の杉は500年余りが寿命と言われる中、屋久杉は2,000年を超える巨木が幾つか発見されています。
また、成長が大変遅く500年で直径40㎝にしか成長しません。日光の杉並木では360年程で150㎝を超えるものも存在しています。
大きな直径の屋久杉が、いかに珍しく貴重であるかが想像できます。
ゆっくり育つ屋久杉は材質が緻密で樹脂分が多く、腐りにくいので長生きすると考えられています。
成長は遅いのですが、スギとしては長命なので巨木になるといえるようです。
『屋久杉の歴史』
1560年頃、現在の鹿児島神宮の改築に使用されたのが記録に残る初めて伐採利用と言われています。
1587年には石田三成が薩摩藩主・島津義久に命じて屋久島島内の木材資源量の調査を行ない、屋久杉を建材として大阪に運んだとされています。
江戸時代に入り、屋久島島民の貧困を目の当たりにした儒学者・泊如竹が屋久杉伐採を島津家に献策し、
1640年頃から本格的な伐採が開始。
屋久杉は油分が多く、粘りが強い材質のため船材や屋根材などに加工され、島から出荷されていました。
1921年に入り、薩摩藩占有だった材の国有林化が認められると、伐採は更に本格化。
第二次大戦後の復興に多くの屋久杉が利用され、経済成長の礎となりました。
一方、伐採と同時に守る動きも活発になり経済成長が一服し輸入材の増加に伴い、
1985年には森林生態系保護地域が制定され伐採しない中枢部と、
生態系を保全しつつ利用する周辺部に分けられました。
1993年に屋久島が日本初の世界遺産に認定。同時に伐採は全面禁止となりました。
伐採自体は禁止されていますが、江戸時代に薩摩藩が伐採して島から持ち出せなかった 埋もれ木(通称,土埋木)が木材市場に競りで出土しています。
しかし、2019年3月に競り自体も全面禁止となり、正に入手不可能の木材となりました。
『屋久杉と小杉』
樹齢1,000年以上を“屋久杉”、未満のものを“小杉”と呼びます。
江戸時代には、加工し易い真っ直ぐな屋久杉が積極的に伐採されていました。伐採された事により周辺に太陽光が降り注ぎ、新たな杉が健やかに成長しました。
これを切り株更新と言います。樹齢数百年の“小杉”の多くは、こうして誕生したものです。
“屋久杉”は、人が手を加えず自然の育みの中で誕生したものと言われています。ひしめく山の中で太陽を浴びれず成長が著しく遅く木目が詰まっているのが 特徴です。現在の“屋久杉”の多くは、凹凸が激しく利用しにくいと判断され伐採されず残っているものです。
屋久島で見る事ができる縄文杉や大王杉など有名な巨木が代表例です。
『杢の種類』
屋久杉は普通の杉とは異なった特徴を持っています。色が濃く、香りが強いことがまず挙げられます。
また、永く生き続けるために樹脂が多く、
普通の杉の6倍以上含まれ、腐りにくく、虫にも強いという特徴を持っています。
成長が遅いため、年輪が細かく、独特の木目や杢と呼ばれる模様を持ち合わせています。
ここでは、その杢の種類をご説明して参ります。
水の気泡のように小さな渦がたくさん集まっている部分。 屋久杉の中でも大変希少で、大きなものはめったに見ることができません。樹脂が多いので重たく、赤黒い色合いのものが多いです。
木が傷を負ったり、屈折して成長することで無理な負荷がかかることで、まっすぐに伸びない部分に、独特な光の陰影があらわれます。 光る部分を光明(こうみょう)と呼びます。
規則正しい光の波が大きく、ゆらゆらと何層か合わせて光る杢を虎杢(とらもく)と呼びます。木が波打って育っていた部分が多く、泡瘤(あわこぶ)と 並んで最高級の素材です。
虎杢が大変細かく緻密に入り、煌びやかな杢です。立体感ある雰囲気が特徴的で大変希少性が高い種類ですので滅多にお目にかかれません。
油分が多く染み出し、褐色の光を放つ杢です。油分が多いため、通常の商品よりも重量がやや重いのも特徴です。
鶉の羽の模様に似ることからこう呼ばれています。極めて緻密で、何層にも折り重なる風情は多くの人を魅了します。
土埋木の繊維にそって侵食する“蓮根菌”が入ると小さな穴が開きます。これらが不均一に複数開くことで独特の表情があらわれます。
笹の葉が重なったように現れる杢。若い木は単調な山形ですが、年数経過するとギザギザの模様が現れてきます。